仕事-有澤悠河

美濃に「折る」ことを仕事にしている人がいると聞いた。

工房の目の前を流れる長良川には、家一軒分ほどの大きな岩がいくつもあり、その間を深い緑色の水がゆっくりと流れている。
散ったばかりの桜を踏みながら入り口をまたぐと、外の陽気とは対照的な薄暗い作業場に、漉いた紙を天日で乾かすための板が5、6枚立てかけてあった。
「この辺では昔からトチノキの板が良いって言われてるんです。」

仕事-有澤悠河
仕事-有澤悠河

札幌で生まれ育ち、幼い頃から折り紙に熱中した少年は、いつしか紙そのものを自分で作りたいと考えるようになった。
高校を出るとすぐに美濃に来て、紙漉き職人になった。

仕事-有澤悠河

海外産の材料、防腐剤などの薬品、そして機械による強制乾燥——それらが半ば伝統となっている業界で、この人は江戸時代のようなことをやっている。

冬になると、裏の畑で収穫した楮(こうぞ)を蒸して、樹皮を剥ぐ。煮て柔らかくし、チリを手で取り除いてから砕く。新鮮なトロロアオイを使って漉き、最後はあのトチの板に貼って天日で干すのだ。

当然、並大抵でないコストになる。
だから普通の店には並ばない。
本物を求める高級インテリアブランドや、海外のハイブランドが、彼の紙を求める。

仕事-有澤悠河

Occupation: Folding Engineer

しかし、彼を有名にしたのは、和紙よりも、幼い頃から続けている折り紙のほうだった。作品が話題となり、彼の本が出版されると、企業からパッケージ設計などの依頼が来るようになった。
そうして彼は、「折り方」を納品する、折りのエンジニアになった。

仕事-有澤悠河

有澤悠河《Dragon2018 -IBUKI-》
楮雁皮混合紙、91×91cm 、不切正方形一枚折り

最近、彼のところに妙な依頼が来たという。
特殊なプリーツのスカートを作りたいので、折り方を考えて欲しいというものだった。

本当に、「折る」ことを仕事にしている人がいた。

文・吉川武志

仕事-有澤悠河

UNITED ARROWS/Steven Alan

Gallery

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楮(こうぞ)の新芽

伸びた枝を冬に収穫して紙の材料にする。近年は外国産も多く、国産の楮は貴重。

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樹皮

枝を蒸して剥いだ樹皮。これにナイフを当ててさらに内側の白い薄皮だけを剥がす。

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チリ

美しい紙を作るために、色の濃い部分や硬い繊維などを冷水の中で一つずつ取り除いた物の塊。

仕事-有澤悠河

柔らかくなった樹皮

食品にも使用される安全なソーダ灰で煮て繊維を柔らかくしたもの。

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